2010年7月31日土曜日

Gibson 1937 バンジョー ネック折れ インレイ 塗装 修理


こんにちは。
北川木工です。

今回はネック折れ修理のレポートです。
1937年 Gibson バンジョー です。

見るからに高価です。
これはスペシャルな仕事しなければと正直ビビリます。

ネックだけで軽自動車新車買えるらしいです。



見てください。この薄さ、細さ! ロッドの小穴(木工用語で小穴と言いますが溝のことです)ついてあるのでさらに強度が保てません。



これはかなり細めの契
(ちぎり 木工用語で木と木を接合させる際、補強のためにうめ込む木 蝶型の物が一般的)
を数多く埋めこむ必要があります。

接着面積が少なく確実な接着力が必要で、クランピングに時間がかかるためタイトボンドを使い接着します。








確実に接合出来るようにありとあらゆる角度からクランピングします。

これだけのクランピングが必要でした。
かなりの時間かけてクランピング方法の検討が必要だったので膠では到底不可能でした。

添え木、ハタガネ、クランプ、萬力、ビニールテープ、養生・・・
ありとあらゆるモノを使い慎重に傷つけないよう確実に締める工夫します。




接着してクランピングしたまま2日放置。

接合部分に8枚の契り入れました。

マホガニーネックのため契の材は、マホガニー材に色目が近く、強度的にうんと強いカリン材で作りました。
カリンはエボニーやローズと同じく唐木系の材で縦繊維の引っ張り強度はマホガニー材など問題にならないくらい硬く強いです。
薄くても確実に保持します。





契の埋め込み深さや形状は、ロッドの小穴の深さや、割れの角度などあらゆる条件を満たすよう、それぞれが違います。
どうやって彫ったかって?
それは秘密。

ところどころ欠けてしまってる部分があります。






欠けてしまってるところにパテを埋め

余分なカリンを小刀で削り取ります。













綺麗にサンディングしてピースガン使いラッカー塗装していきます。

色はラッカー色付け用の顔料 赤、黒、黄色を混ぜ必要な色を作っていきます。
顔料を沢山入れると強度が極端に落ち、へたすると乾かなくなります。
私は8%以下で調合します。

何度も色を重ねて行きますが、度に微妙に色を変え、マホガニーの木目を描き、また塗り重ね納得行くように地道にやります。








職人仕事は急ぐとろくなことはありません。
行き当たりばったりや偶然は通用しません。
失敗したら終わりです。

やり直しや、修正のきく仕事ならまだ良いですが、やり直しのきかない一発勝負の仕事も多々あります。

慎重に色々な方向から問題解決に至るいくつもの道を考え、最適な道を選び、すべての工程をシュミレートし道具、材料揃え、それから自信持って大胆に行動する。
それが一番の早道であり鉄則です。




余談ですが、私は25年以上木の仕事に携わり、工芸、家具、漆螺鈿、文化財修復など興味のある木の仕事にのめり込んできました。
その中でもこのギターリペアの仕事は私のなかで、第1級の難しさと興奮とやりがいを与えてくれます。
現在も木工、漆の仕事も沢山依頼されますが、それらの仕事は信頼できる良い職人仲間や弟子に委托して、ギターリペア1本にのめり込んでいます。

今まで経験し、得た知識のすべてを駆使して、尚且つ新しい知識と技を模索し追求出来る素晴らしい仕事です。

ほんと幸せです。

すいません。つい興奮してしまいました。

これくらい演奏もできればな~。
まだまだ先は長い。  楽しみましょう!
















欠損している白蝶貝も入れ、ヘッドプレートの亀裂も修復して完成しました。

よ~く見ても折れた形跡も契の跡も分かりません。









この修理の依頼は、滋賀の八日市にある くらま楽器 http://www.kuramainst.com/index.html
様の依頼です。
オーナーの吉田悟士氏はバンジョー、ギター、マンドリンなど演奏の達人で数々のコンテストで賞を取られ、ブルーグラスの聖地と呼ばれている楽器店です。
ビンテージ楽器の知識も深く、楽器業界も詳しく、わからないことは何でも聞いちゃいます。
信頼し、尊敬している師匠です。

そんな方から、ええ出来や!Gibsonカスタムショップなみの仕事や!と太鼓判頂き 嬉しかったです。

最近、吉田さんとGibsonカスタムショップのフレット交換の技について探り、研究して、スペシャルなフレット交換もやり終えました。
通常のフレット交換とは違う技身に付けました!

次はそんなフレット交換のレポートをアップします。

ありがとうございます。

1 件のコメント:

  1. こんな嬉しいメール頂きました。
    ありがとうございます。

    北川 様

    Gibson 1937 バンジョウーのネック修理を拝見いたしました。
    素晴らしい技術ですね!

    工芸的な大工職人さんの技術を発揮されて入る事がよく解ります。
    私も住宅建築に携わっております。
    木組みの仕事をする当社の大工さんでもこのような決め細やかな
    細工は嫌がってしてくれないと思います。

    木工技術の経験と優れた技術を習得された北川さんが
    ギターの修復に一番興味をお持ちになっている事は
    ギターフリークにとって大変心強い事であります。

    日本全国で傷を負って眠っている
    かわいそうなギター達をどんどんと生き返らせて下さい。

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